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岩手で活動するハードコアバンドMEIANのシングルカセットテープです。
DLコード付き。
https://northernsadnessproductions.bandcamp.com/album/-
text by 大下真人(ex. Sandinista)
MEIAN
圧巻の一言。短いインストを経て、2曲目の表題作「遠ざかる」の第一声。この絶叫の掛け合いを聴いた時点で体が硬直してしまった。前作4songsの延長線上にありながらそれを遥かにアップデートした名作だ。
今作のシャープで立体的な音像はバンドが持つ世界観と合致し、その魅力をより引き出している。ミドルテンポで展開する楽曲はシリアスでどこか無機質な空気が漂い、悲しみや苦しみという感情の一線を越えた先に音だけが残っている感触がする。
短めのセンテンスで構成された歌詞は淡々としているようで痛覚に訴え、強い怒りと諦念が共存する。そして主観から離れ、並行して存在する心象風景の描写がとても美しい。
多彩な音色で心の琴線に触れる緻密なギターワークがMEIANの最大の魅力だと感じるが、ギリギリした輪郭で鳴り楽曲に深みとグルーヴを加えるベースと、強靭でダイナミズムに溢れながらも繊細なフレーズを叩くドラムがしっかりとボトムを固め、その上に圧倒的な絶叫と場面ごとに抑揚のついたボーカルが行き交い、それらが一体となる瞬間の爆発力もまた唯一無二だ。流れるように曲が展開し静寂が訪れたときに、呼吸を忘れ息を呑む自分にやっと気付く。
一貫したスタイルで表現を追求し、ここまでの完成度に行き着いたバンドは他に思い浮かばず、もはや稀有な存在といえるのではないだろうか。海外のバンドを引き合いに出せばDaïtroやSuis La Luneが挙げられるのかもしれない。ただ、その比較対象を国内に向けると類似するバンドは思い当たらず、ましてやライブハウスに通う人口が限られた地方都市にこんなバンドがいるとは誰も思わないだろう。
当然、活動拠点の盛岡でもMEIANは異彩を放つ。この街ではskramzや激情ハードコアを知る人はごく僅かだがMEIANのライブを見て衝撃を受ける観客は多く、幅広い層にリーチし続けている。
結成から何度かのメンバーチェンジを経て現メンバーで布陣が固まり数年が経つが、東京在住のメンバーがいるために練習の頻度が少ない状況に置かれているとは思えないほどバンドの精度は極まっている。
先日のcold winterとの合同企画Intersection vol.3ではライブ中にとうとうモッシュが起きた。D-BEATやビートダウンこそがハードコアであるという認識を持つ人が少なくない岩手において、MEIANが紛れもなくフィジカルな衝動を持つハードコアだということを証明した瞬間だった。この鋭く緩急のついた激しい演奏が人の暴力衝動に訴えかけたのだ…と畏怖を感じながらフロア後方でその様子を眺め拳を握った。
この音源はcold winterのギター、チダ氏によってレコーディング・ミックス・マスタリングが施された。しかもその製作期間は僅か二週間余り。凄まじい熱量を帯びた時間だったことだろう。
cold winterのリリースに際してチダ氏が立ち上げたレーベルNorthern Sadness Productionsの第二弾として発売される今作は、正にそのポリシー、テーマに沿うものだ。北国の厳しい気候や生活環境によりもたらされる経済的な困難、それに伴う負の連鎖。ここでの生活において直面する不条理に足掻く者が味わう怒りと、それを押し殺す感情。バンドの拠点が北国であるからこそ表現できるものである。
コロナ禍でも地元ハードコアシーンのバンドと共にストイックな活動を続けたMEIANと、エンジニアとしてのチダ氏がタッグを組んだ化学反応の結晶をぜひ手に取り体感してほしい。
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